TMSの1H NMR 【オタワ大NMRブログ 和訳記事】

TMSの1H NMRシグナルは0 ppmにシングレットで出る……でしょうか? 違います!

通常のTMSはアイソトポマーの混合物です。ケイ素は、92.2%の28Si (I = 0)、4.7%の29Si (I = 1/2)、3.1%の30Si (I = 0)で構成されています。炭素の方は、98.9%の12C (I = 0)と1.1%の13C (I = 1/2)です。それぞれのアイソトポマーは違うNMRスペクトルを示します。TMSのプロトンは13Cや29Siとカップリングしますが、12Cや28Siとはカップリングしません。下の図は、400 MHzでのTMSの1H NMRスペクトルです。主要なアイソトポマーのシグナルがラベリングされています。


コメント

MDさん
はい、確かに、私も同じスペクトルを目にします。そして0.07 ppmに小さいシグナルが見えますが、このブログのスペクトルにもあるようです。私はこのシグナルはSi(CH3)3(CDH2)の同位体効果に由来するものだと考えています。CH2Dのシグナルは二つのトリプレットになるはずなので、強度はとても小さいです。一方、化学シフトに与える影響は大きいはずです。このプロトンのシグナルの位置は400 MHzと500 MHzで同じです。同位体効果は0.07 ppmになりますから、ずいぶん大きいですね。これについてどう思われますか?
MDより
November 9, 2010 at 3:27 AM


Glenn Facey氏
MDさん
コメントありがとうございます。重水素の天然存在比は0.015%です。したがって、Si(CH3)3(CDH2)アイソトポマーは0.18%で発生します。その小さいシグナルとTMSの大きいシングレットとの0.07 ppmの差は同位体効果によるものだと考えることもできますが、私はこのシグナルがTMSに由来するものかどうか自信がありません。今回の小さなピークは不純物によるものではないかと思っています。

Si(CH3)3(CDH2)のCH3は、9個の等価なCH3のプロトンとCDH2のプロトンとのカップリングにより大部分が1:2:1のトリプレットになると予想できます(重水素や29Siとの小さなカップリングもあるはずです)。CDH2の方は、重水素や他の9個の等価なCH3のプロトンとのカップリングで複雑なマルチプレットを与えるでしょう(こちらも29Siサテライトが存在します)。我々が今回観測しているシグナルはシングレットであり、モノ重水素化体のものにしては少し強度が強すぎるように思います。

納得いただけたでしょうか?

Glennより
November 9, 2010 at 10:21 AM

Dmitryさん
似たような質問があります。TMSのサテライトの位置は中心のピークに対してほとんど対称ですが、化学シフトの違いについてはどうでしょうか?(CH328Si vs CH329Siや、H-12C vs H-13C)
August 16, 2020 at 12:16 AM


Glenn Facey氏
Dimitryさん
1H-29Siと1H-28Siの同位体シフトの値はわかりませんが、0.005 ppmより小さいことは確かです。CHCl3の場合、H-13CとH-12Cの同位体シフトは~0.003 ppmです。
Glennより
August 17, 2020 at 9:45 AM


Original title: Proton NMR of TMS
11:04 AM, TUESDAY, SEPTEMBER 18, 2007.

References:
Glenn Facey, University of Ottawa NMR Facility Blog: Proton NMR of TMS, http://u-of-o-nmr-facility.blogspot.com/2007/09/proton-nmr-of-tms.html (accessed 2023-06-15).

この記事はGlenn Facey氏の許諾のもとUniversity of Ottawa NMR Facility Blogの記事を和訳しているものです。

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