昨日、観察力ある学生に、なぜ13Cスペクトル中のCDCl3のトリプレットの中に小さなピークが頻繁にみられるのかという質問を受けました。
この小さいピークはCDCl3に少しCHCl3が含まれることが原因です。測定の際にプロトンデカップリングを用いているため、CHCl3のシグナルはシングレットになっています。CDCl3のシグナルはというと、3つのエネルギー準位をもつスピン I = 1の重水素とのカップリングにより、1:1:1のトリプレットになります。このような、アイソトポマー(CDCl3とCHCl3)間の化学シフトの違いを同位体シフトといいます。
Q1. 塩素は2つのNMR活性同位体(35Clと37Cl)をもつが、13Cと35/37Clとの間のJカップリングが13Cと2Hのように観測されないのはなぜか?
A1. 塩素同位体のエネルギー準位間の緩和は非常に速く、13Cは平均的なエネルギーでそれぞれのClを「見て」います。一方、2Hのエネルギー準位間の緩和は遅く、13Cは重水素の3つ全てのエネルギー状態を「見て」います。
Q2. CD35Cl3とCD37Cl3との間の同位体シフトが見られないのはなぜ?
A2. 同位体シフトの効果はある、が……ただ観測できないほど小さいということです。
コメント
名無しさん
こんにちは。
最近、トリプレットの中の強度比にばらつきがあることを観測しています。SEFT実験で、トリプレットの真ん中のピークが両側のピークより低いんです。
この原因は何が考えられるでしょうか?
April 8, 2015 at 3:13 AM
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Glenn Facey氏
名無しさんへ
CDCl3のトリプレットのことをおっしゃっているんだと思いますが、SEFT実験における13C 180度パルスがうまくキャリブレーションされていない場合、そういった強度の歪みが見えるかもしれません。使っているプローブはしっかりチューン&マッチされていますか?
Glennより
April 8, 2015 at 3:37 PM
名無しさん
解説ありがとうございました。非常に参考になります。メチルイソシアニドの1H NMRにおいてなぜトリプレット/マルチプレット(トリプレットだが、ソフトウェアはマルチプレットとして認識する)が見えるのかを、もしよろしければ教えていただけないでしょうか?積分値は0.95:1:0.95です。
よろしくお願いします!
May 12, 2015 at 11:58 AM
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Glenn Facey氏
名無しさんへ
ご質問ありがとうございます。見えているトリプレットは、プロトンと四重極14N(スピン I = 1)との間のカップリングです。こういう分裂はテトラアルキルアンモニウム塩の13Cスペクトルでも見られます。このリンクを見てください。
http://u-of-o-nmr-facility.blogspot.ca/2007/12/13-c-14-n-j-coupling.html
14Nのエネルギー準位間の緩和速度が異なるため、強度は正確には1:1:1になりません。このことは、このリンクに示されている13C-50Coカップリングの例でしっかりと現れています。
http://u-of-o-nmr-facility.blogspot.ca/2015/01/multiplets-for-spin-i-12-nclides.html
Glennより
May 12, 2015 at 12:16 PM
名無しさん(slamasouma)
こんにちは
13C NMRのピークの強度が1H NMRのように異性体の割合に依存しないのはなぜですか?
ありがとうございます。
June 5, 2015 at 9:30 AM
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Glenn Facey氏
Slamasoumaさん
13C NMRがなぜ定量的でないのかという質問でしょうか。もしそうなら、この投稿が参考になると思います。
http://u-of-o-nmr-facility.blogspot.ca/2007/12/how-can-i-get-quantitative-13-c-nmr.html
Glennより
June 5, 2015 at 12:42 PM
Pi
こんにちは
13C NMRにおけるCDCl3のピークの数と強度について教えてください。
November 18, 2016 at 4:35 AM
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Glenn Facey氏
Piさん
CDCl3の13Cは一つの2Hと結合しています。2Hはスピン I=1の同位体で、3つのゼーマンエネルギー準位を持ちます。13Cは、ほとんど同じ存在比のエネルギー状態を持つ2Hをそれぞれ「見る」ため、1J (13C-2H)カップリング定数で分離した強度の等しい3つの線のトリプレットとして現れます。
Glennより
November 18, 2016 at 8:32 AM
Original title: Isotope Shifts for Chloroform
12:53 AM, THURSDAY, SEPTEMBER 13, 2007.
References:
Glenn Facey, University of Ottawa NMR Facility Blog: Isotope Shifts for Chloroform, http://u-of-o-nmr-facility.blogspot.com/2007/09/isotope-shifts-for-chloroform.html (accessed 2023-06-13).
この記事はGlenn Facey氏の許諾のもとUniversity of Ottawa NMR Facility Blogの記事を和訳しているものです。